ロックオフ(仮)とロックオン
(双子+ライル=オフ設定) 23話後捏造
嫌いだった。
自分から大切なものを奪い、それでも変わらず続いていく無慈悲な世界が嫌いだった。
だから手を離した。あいつが生きる世界を変えたくて。
ゆるゆると覚醒する意識に引き摺られるように、ロックオンは重い瞼を上げた。
霞ががった狭い視界に、見覚えのない白い天井が見える。重い四肢は動かすどころか感覚すらも定かではなく、規則的に響く電子音が頭に響いて眩暈がする。
――おれ、は。
「ニールっ、目が覚めたのか」
突然視界に飛び込んできた碧に、わずかに瞬いた。
どこか見覚えのあるその色におぼろげな記憶を遡り、思い出す。当然だ。いつも目にしていた己の色彩。そして、全く同じ色を持ち合わせた半身のもの。
名を呼ぼうと口を開き、けれど声はおろか息すらも上手く吐き出せずに唇を震わせた。
「らい、る」
「無理するな! お前、今どれだけ瀕死だと思ってる!?」
それでもなんとか音になった声に、ライルは顔色を変えて虚ろな瞳を覗き込む。喋るどころの話ではない。ロックオンの……ニールの命の糸は救命装置によって辛うじて繋がっている状態で、無事な部位などないに等しいのだから。
揺れる碧眼を見上げているうちに、徐々に記憶が戻ってきた。
ライルの生きる未来が欲しかった。
こんな世界は嫌だった。奪われ嘆くだけの世界は嫌だった。
――だから、変えたかった。
このせかいでたったひとりの半身を、守りたかった。
途切れそうな意識をかき集め、包帯にまみれた右腕に力を入れる。感覚は麻痺し痛みすら感じない。ニールが何をしようとしているのかをすぐに悟り、ライルは細心の注意を払ってその右手を取った。
「おれは、ここにいるよ。お前のそばにちゃんといる」
掴んだ手をそっと自分の頬に触れさせて、ライルは目を細める。
「ばかだな……たとえ世界が変わっても、お前がいなきゃ意味がないんだ」
(だけど、生半可な覚悟じゃ世界なんて変えられないって知っちまった。だから)
だから地に身を堕とした。数え切れないくらいの命を奪って、罰は受けると自分に言い訳しながら。
変わった世界に、そこに自分がいなくても構わないとさえ思って。
「お前がいて、俺がいて、初めて世界は成り立つんだよ」
流れ落ちたしずくが、頬に触れている包帯を濡らした。碧が、揺れている。
「変えたかったよ、俺も。お前の生きる未来が欲しかった。お前を守りたかった。俺はお前でお前は俺だ。どっちが欠けたってだめなんだ、そうだろ……?」
とめどなくこぼれる涙をぬぐいもせずにライルは言葉を紡いだ。
「やっとお前にさわれる。やっとお前と生きられる」
伸ばされた手がニールの頬に触れ、目尻を伝う透明なしずくをやさしくぬぐう。
まるで鏡写しのようにふたりは互いに触れ涙を流した。
嫌いだった。
自分から大切なものを奪い、それでも変わらず続いていく無慈悲な世界が嫌いだった。
だから手を離した。あいつが生きる世界を変えたくて。
そのためにこの命が必要ならそれでもいいと。そう思っていた。
それなのに。
生きたいと、思ってしまった。
このせかいでたったひとりの半身と、生きてゆきたいと思ってしまった。
なんておこがましいのだろう。散々罪を犯してきたのに。
「生きようニール。ふたりで生きよう」
もう、この手を離したくないと思ってしまった。
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白ライルで。たまには救いのある話を書きたいと…思っ…orz
途中で気付いて止めたんだが、元々“この後まもなく兄貴は息を引き取った”って結末にしようとしていた自分どんだけ鬼ですかと。そこまで救いをなくしたいか…!?