パイロットスーツが朱に染まっていくのを、刹那は妙に静かな気持ちで見つめていた。
「――ロックオン」
血の気の引いた頬に触れる。特殊素材越しであることがひどく残念に思えた。
上体を抱きしめれば、流れた血が刹那のスーツをも染めていく。
ゆるりと上がった瞼の奥から覗いた碧は、きっともう刹那の姿を捉えてはいないだろう。
それが少し哀しくて、栗色の髪に指を絡めて頭を抱き寄せる。
されるがままに刹那の胸元に頭を預け、ロックオンは微笑った。
「……あったかい、な……」
視界は闇色に染まり、血を失った身体は凍るように寒い。
そんな自分を抱きしめる腕のぬくもりが、ひどく心地良かった。
髪に触れる手に、名を呼ぶ声に安堵した。
『ニール』
自分を抱きしめるやさしい腕。
髪を撫でるやさしい手。
穏やかに名を呼ぶ、やさしい声。
――ああ、ずっとこれが欲しかったんだ。
失くして、奪われて、諦めて、忘れたもの。忘れようとしたもの。
いらないと思っていた。自分には必要ないと思っていた。そう言いきかせて生きてきた。
それでいいと、思っていた。
それなのにこんなにも安らぐ。こんなにも安堵する。
心が、やさしかったあの頃に還っていく。
あたたかな、腕の中で。
「 」
「ロックオン……?」
小さな吐息、そして重みを増した身体。
腕の中のロックオンの顔を覗き込み、刹那は僅かに瞑目する。
胸に頬をよせて、彼はひどく安らいだ顔で眠っていた。
初めて目にするその表情に、泣きたくなるような衝動を覚えてその身体をかき抱く。
自分の腕の中で彼がそんな表情を見せてくれることがひどく嬉しくて、けれどたまらなく苦しくて、愛おしくて、哀しかった。
戻らない自分達の安否を、仲間達はきっと心配しているだろう。
アレルヤはもちろん、ティエリアも文句をつけつつ気にしているに違いない。
そこまで考えて、刹那は小さく笑った。
こんなことを気にするのは、ロックオンの役目だったはずだ。
無頓着な自分達の分まで周囲に気を配り、仲間に気を遣っていた彼ではなく、自分がそんなことを考えるなんて可笑しなはなしだ。
穏やかな顔に視線を落とし、そっと頬を撫でる。
早く仲間達に連絡を入れなければ、とらしくないことを尚も考えて。
ああ、でも。
もう少しだけ、彼の安らいだ表情を見ていたいと、そう思った。
*****
死ネタはシャレにならん。でもその時がきたら、穏やかなカオで逝ってほしい…かも。