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アレルヤとロックオン
「好きです」
唐突に告げられたその言葉にロックオンは瞠目し、それから困ったように苦笑した。
その反応はアレルヤの予想していたものではあったけれど、やはり子ども扱いされているような気がして悔しくなる。
自分の気持ちを軽んじられているとは思わない。彼はそんな人間ではない(少なくともアレルヤはそう認識している)し、受け止めた上での反応なのだろうけれど。
「アレルヤ」
「あなたが好きなんです」
駄々をこねる子供のようにただそれだけを繰り返した。
二十歳を過ぎ合法的に飲めるようになった酒は、思考回路を麻痺させ、普段抑圧していた感情を紐解くように開放していく。
もう、隠しようがなかった。
「好き、なんです……」
「……俺も、お前のことは好きだよ」
でもきっと、これはお前の欲しい答えじゃあないんだろうな。
そう言って、ロックオンは苦笑を浮かべてみせた。
ずるいひとだと、アレルヤは思う。これも、予想できた答えだ。
――そう。分かっていたのだ。彼がどう反応するのか、どんな答えを返してくるのか。分かっていたのに止められなかった。
「こんな聞き方はずるいだろうけどな……お前はどうしたい?」
「え?」
「俺を好きで、それだけでいいのか?」
碧の瞳がまっすぐにアレルヤを見る。
ああ、ずるいひとだ。自分はかわそうとするくせに、逃げさせてくれない。
「……その先を望んでいるのかと聞かれれば、答えはイエスです。でも、それをあなたに押し付けたいわけじゃない」
「俺はさ、お前を大事だと思ってるし大切にしたいと思ってる。でも、一番にすることはできないんだ。それはお前にも分かるだろ」
自分達はソレスタル・ビーイングだ。成し遂げるべき使命があり、それを成すのに個は必要ない。私情が混ざればそれだけミッションの成功率は下がる。
それはアレルヤも同じだ。ただ、ほんの少しの拠り所が欲しい。それだけで。
「……それでも、あなたを好きでいるくらいは許されるでしょう?」
もしこれがただの我侭でも、子供じみた駄々であっても、願うことくらいは許して欲しい。
そう、言葉にするよりも早く、ロックオンは静かに口を開いた。
「――俺はお前に全部はやれない。全ては明かせないし全てを許すこともできない」
ふっと言葉が途切れる。その後に続く言葉を聞きたくないと思う、けれどまっすぐ見据える碧眼はアレルヤを捉え、そしてやわらかく細められた。
「それでもいいなら、お前の気持ちに応えるよ」
言葉の意味を理解するまで数秒かかった。
ゆるゆると思考回路が冷静さを取り戻し、言われた言葉を理解する。そして少しかなしくなった。自分は同情されているのだろうかと。
だが、そんなアレルヤの内心を見抜いたかのように、ロックオンは肩を竦めてみせた。
「勘違いするなよ。お前が大切だってのは嘘じゃないさ。多少、なにかの間違いが起こっても許せそうなくらいには、な」
「どういう、意味ですか」
「どうもこうも、そのまんまだぜ?」
「俺の身体とこの気持ち、これだけならお前にやれる。どうだ?」
ああ。彼はなんてずるいおとななんだろう。
できることなら彼の全てが欲しかった。けれどそれができないことも知っていた。
ならば諦めなければならなかった。それなのに、彼は。
「――それだけだって、お釣りがきますよ……」
そんなふうに与えられたら、もっと欲しくなってしまう。子供のように欲してしまう。
でもきっとくれないのだろう。全てはあげないと始めから予防線を引いて、いくら欲しても彼はするりと身をかわしてしまうのだろう。
ああ、そこまで分かっていても。
「あなたを、僕にください」
重なった唇のあまさは、矛盾する想いと思考回路を白く溶かしていった。
*****
ずるい大人とすがる子供。ていうか兄貴がただのひどい人だ!